

朝の6時半、カーテンの向こうに箱根の山がぼんやり光って見えた。旅先では自然と目覚めが早くなってしまう。誰もいない露天風呂で湯に浸かり、朝食をすませたあと、目的地を決めずに歩き始めた。箱根湯本から旧東海道へ。石畳の道を進むと、朝の光の中で鳥の声がよく聞こえる。観光客もまだ少なく、この時間帯の箱根は実に別の顔をしていたのである。
朝風呂の静寂、箱根の山を眺める
朝の6時半、窓を開けると箱根の山々がうすぼんやりと見えた。まだ宿泊客の多くが眠っているはずの時間帯。急ぎ足で露天風呂へ向かうと、湯船には誰もいない。硫黄の香りがほのかに漂い、朝日が湯面に反射している。ぬるめの湯に肩までゆっくり浸かると、一晩かけて疲れが抜けていくのが感じられた。こういう贅沢が、年を重ねた旅の楽しみなんだろうな、と思いながら20分ほど動かずにいた。朝食のあと、吉池旅館を出て、何の計画もなしに歩き始めた。目的地を決めずに進むというのは、若い頃の旅にはなかった贅沢である。 吉池旅館の宿泊予約はこちら

旧東海道の石畳を歩く、職人の手仕事
朝の箱根湯本から旧東海道へ。石畳の道が続いている。夏の朝日が鮮やかに石を照らし、ところどころ苔むした跡が見えた。靴の裏が石畳に触れるたび、かすかな音がした。観光客はまだ少なく、聞こえるのは鳥の声だけ。民家の軒先には朝顔が咲いており、どこからともなく朝食の匂い――味噌汁だろうか――が漂ってきた。このささやかな情景の中を進んでいくと、やがて畑宿へ到着した。

甘酒茶屋から芦ノ湖ドライブ
畑宿の寄木細工の店を覗いた。店の奥で職人が木を削っている。小刀か何かを使い、色とりどりの木片を組み合わせていく。その削る音――シュ、シュという小気味いい音――をただ聞いているだけでも時間が過ぎていった。職人は客の私を気にせず、黙々と手を動かしていた。完成された何かを作っているのではなく、その作業そのものが目的なのではないか、と思えるほどの没頭ぶりであった。さらに足を延ばして甘酒茶屋に着くと、名物の甘酒と力餅をいただいた。甘酒は濃厚で優しく、力餅はもち粉の食感が心地よかった。こうした土地の名物を前にして、初めてそこに来た実感が湧くのだ。

会席料理と温泉、夜の時間
昼食は自然薯そば。蕎麦の香りが心地よく、つなぎに自然薯が使われているため、つるりとした食感の中にほのかな粘りがある。豪華な食事ではないが、この年齢になると、こういうものが一番美味しく感じられるようになった。午後は車を借りて芦ノ湖方面へ少しドライブ。道の駅でソフトクリームを買った。山越え直前の小高い場所で、冷たいアイスを口に含むと、箱根の風が体を通り抜けていくような気がした。
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無理なく楽しむヒント
朝早く起きることで、観光地でありながら人影の少ない箱根の顔を見ることができます。石畳は意外と足腰に来るので、歩きやすい靴で。旧東海道の散歩は無理のないペースで、途中の茶屋で甘酒を飲んで休むのが吉。午後のドライブは箱根の高低差を感じるため、軽めの昼食を心がけるとよいでしょう。二度目の温泉は夕食前に。湯上がりの短い昼寝は、夜の会席料理をより一層引き立たせます。缶ビールは冷えたものを。



















