

午後からの気軽な出発、それが心地よい
朝は普通に過ごす。特に用意周到に準備するわけでもない。夫婦で「そろそろ行こうか」と声をかけ合って、午後になってから出発した。荷物だって、それほど多くない。忘れ物があっても、近場なら何とかなる。そういう気楽さが、実は心地よいものなんである。遠くへ行く旅行には、どうしても構えてしまう。万が一に備えて、あれもこれも詰め込む。でも近場旅行なら、そういう心理的な負担がない。気持ちにも、体にも余裕が生まれる。夫婦で並んで歩くとき、会話にも自然と弾みが出るんだよな。
川越の古い町並みを、ゆっくり歩く
川越に着く。古い町並みが残っている。蔵造りの町家が立ち並んで、歩いているだけで普段の日常とは少し違う気分になる。でも今回は、川越を一日かけて徹底的に観光するつもりはない。気になるところを少し歩く。店の前で足を止める。「こういうところ、いいね」と妻が呟く。レトロな看板が傾いていたり、古い漆喰壁の質感が目に映ったり、そういった細かいものが積もって、町全体の空気感をつくるんだろう。何か食べて、疲れたら休む。それくらいでいい。歴史を感じる町並みを、気ままに楽しむ。「昔の町って落ち着くね」と話しながら歩く。そういう歩き方もあるんだと、改めて思った。
長瀞の宿で、景色に包まれて
夕方になってくる。長瀞方面へ向かう。今日はもう、それほど頑張らなくていい。宿へ到着すると、部屋に入った瞬間、窓の外の眺めに目が止まった。これが思っていた以上に気持ちよかった。窓から見える景色は、緑の向こうに川の流れが見え、陽の傾き具合で色が刻々と変わっていく。「ここ、いいね」と妻と顔を見合わせた。観光地へ無理に足を運ばなくても、部屋から景色を眺めているだけで十分だと感じた。時間がゆっくり流れている気がした。
温泉と時間と、ゆるやかな夜
温泉に浸かる。湯船の湯加減は心地よく、肩の力がするりと抜ける。風呂から上がると、冷えた缶ビールが待っている。部屋に戻り、再び窓の外の景色を眺める。夕食まで、夫婦でのんびり。食事を済ませて、また温泉に入る。二度目の湯は、からだが緩みきっていて、まるで別世界に浮かんでいるような心地がした。夜の暗さの中に、湯けむりが白く立ち昇る。そうして一日目は終わる。「明日、どうする?」と聞く。特に予定はない。それが、今回の旅行らしかった。気張らない。そういう旅も、いいものなんである。
無理なく楽しむヒント
近場旅行だからこそ気をつけたいのは、気楽さに甘えすぎないこと。天気予報は朝のうちに確認しておくと、歩き回るときに心に余裕が生まれる。歩きやすい靴で行くこと。古い町並みは石畳や段差が多いので、足腰への負担を考えると柔らかい履き物が吉。温泉地での滞在なら、入浴時間は決めずに、気の向くままに。ただし温泉は循環しているので、連続で長時間の入浴は避けた方がいい。宿での食事は、夜遅くに重い物を食べすぎると、後の睡眠に響く。軽めの夜食で十分。午後出発だからこそ、到着時刻に余裕を持たせると、焦らず楽しめる。大人旅のひとこと
旅というのは、遠くへ行くことだけが全てではないんだろうと思う。わが家から近い川越や長瀞へ向かうときも、心持ちひとつで旅になる。普段の生活から少し距離を置き、別の世界に足を踏み入れる。そういう姿勢があれば、場所は関係ないのかもしれない。午後から気ままに出発し、夫婦で並んで歩き、宿の部屋から景色を眺める。時間が、いつもよりゆっくり流れているように感じた。人生の中で、こういう時間がどれだけあるだろう。年を重ねるごとに、そう思うことが増えた。もう何度も通った道でも、季節が違えば、見える景色は別物。妻とそんなことを話しながら歩く。そういう夫婦の時間が、何ものにも代えがたい。
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