

夏の箱根湯本。2泊3日の宿泊を選んで、特に何も予定を立てずに来てしまった。大事なのは目的地ではなく、そこでどう時間を過ごすか。最終日の朝、誰もいない露天風呂で目を覚まし、吉池旅館の庭園でベンチに腰を下ろし、缶コーヒーを片手に何もしない時間を過ごす。そんな忙しい毎日を忘れさせてくれる旅について。 → 吉池旅館のご予約はこちら
誰もいない朝風呂で、一日が始まる
最終日の朝、目を覚ましたときはまだ薄明るい時間だった。箱根の朝は何度経験しても良いものだ。吉池旅館の朝風呂へ向かう。昨日までの夜間営業と違い、早朝の露天風呂は誰もいない。静寂の中、湯の音だけが聞こえる。肌に触れるぬるめのお湯が心地よい。周囲の山々がうっすらと明け始め、空の色が刻々と変わっていく。こんな時間を独占できるなんて、なんて贅沢なんだろう。風呂を出た後の体の軽さ。朝日が当たる肌の温かさ。そういう細かな感覚が研ぎ澄まされていく。

庭園のベンチで缶コーヒーを傾ける
朝風呂を出た足で、吉池旅館の庭園へ向かった。二百年以上の歴史を持つこの旅館の敷地は、思ったより広い。池には鯉が悠々と泳ぎ、緑が深い季節だからか、木漏れ日がちょうど水面に映る角度になっていた。木目細かい日差しが池の底をぼんやりと照らし出す。立ち止まって、その風景をしばらく眺めた。特に何をするわけでもなく、ベンチに腰を下ろし、自動販売機で買ってきた缶コーヒーを飲むことにした。朝の缶コーヒーは、確かに旨い。キンと冷えた缶の感覚。口に含んだときのほろ苦さ。そして、その向こう側に見える庭園。何もしないということが、こんなに心地いいのか。改めて気づかされる瞬間だった。

観光地は行かず、ゆっくり歩いた
旅の間、有名な観光地はほとんど行かなかった。箱根ロープウェイにも、芦ノ湖の畔にも足を運ばず、絶景とされる場所も素通りした。代わりに何をしたか。温泉には何度も入った。昼間から昼寝をした。箱根湯本の商店街で温泉まんじゅうを食べ、甘酒と力餅を口にし、風景を眺めながらソフトクリームを食べた。旧東海道をゆっくりと歩み、地魚で一杯やった。そうしたごく普通の時間の積み重ねが、今、こうして部屋に戻ってきた身体と心に、ある種の満足感をもたらしていた。忙しい毎日の中では忘れてしまう、自分のペースというものを取り戻すことができたのかもしれない。

窓の外の緑と、帰路の思い
チェックアウト時間ぎりぎりまで、部屋の窓から外の緑を眺めながら過ごした。何も急ぐ必要はない。今この瞬間が全てだ。そんな風に思えるようになったのは、この旅があったからだろう。帰りの電車、グリーン車の窓から景色を眺めながら、ふと思った。人生の後半は、どれだけ遠くへ行ったかではなく、どれだけ自分らしい時間を過ごせたかなのではないか。また忙しくなったら、また箱根へ来よう。吉池旅館だけ予約して、何も予定を決めずに。
無理なく楽しむヒント
夏の箱根は混雑が予想されるため、朝風呂は特におすすめ。早起きして露天風呂を独り占めする時間は何物にも代えがたい。箱根湯本は坂道が多いため、歩きやすいスニーカーがあると散策が楽。また、吉池旅館のような老舗旅館には宿泊の他にも日帰り入浴プランがある場合があるので、事前に確認しておくと良い。昼寝をして過ごしたいなら、チェックイン後すぐに部屋で休み、無理なくリズムに合わせること。温泉街の歩きやすい時間帯は朝7時から9時、夕方5時以降が狙い目だ。




















