

城跡から降りてきた足で、岩村本通りへ向かった。岩村城を見た後は、城下町を歩きたいというのが自然な流れなのだ。が、実際に歩いてみると、これがなかなか味わい深い。江戸の面影を今に残す町並みが、ずっと続いている。石垣に格子戸、昔ながらの商家や町家が、さりげなく佇んでいる。急ぐ必要はない。むしろこういう町こそ、ゆっくり歩くのが正解である。家族で立ち止まったり、建物を眺めたり、町の空気を感じたり。そういうことをしているうちに、観光地を巡っているという気分はどこかへ消えていた。
岩村城跡からの下り、本通りへ
岩村城跡を見たあと、城下町へ降りてくるというのは、自然な流れだった。だが降りてくる前は、正直なところ「城下町といっても、そこまでかな」という気持ちもあった。駐車場から岩村本通りへ向かう道を歩いていると、古い家屋が増えてくる。石垣が見える。格子戸が光を受けている。通りに出ると、その光景は想像よりずっと濃密だった。重要伝統的建造物群保存地区に指定されているというのは、確かに看板に書いてあるのだが、そんな肩書きなど忘れさせてしまうほど、町並みそのものが主張していた。歩く速度が自然と落ちる。妻と子どもも、同じペースで歩いている。誰かが「急ぎましょう」と言わなくても、この町はそうさせてくるのだ。

石垣と格子戸の風景のなかで
石垣、格子戸、軒先に古い看板。建物の壁は漆喰で白く塗られたり、焦げ茶に渋く仕上げられたりしている。風の通り方も違う。城跡の石段とは別の、町並みのなかで感じる風というのがある。明け方の光のような、柔らかい日差しが通りに落ちていた。五月から六月の季節は、日中の陽射しも穏やかだ。そのせいか、歩いていて疲れにくい。家族で歩きながら、気になったところで立ち止まる。建物の造りを眺めたり、窓越しに中を覗いたり。観光地だからといって、何か特別な体験をしなければいけないわけではない。むしろ、こういう町は急いで歩かないほうが、その本質が見えるのかもしれない。岩村本通りは、そうしたゆったりした時間の流れを許してくれる場所だった。

岩村の歴史層を読む
岩村には、本通りだけでなく、富田地区の農村風景や、昔の家屋が点在する場所がある。「城」「城下町」「昔の暮らし」という、岩村の歴史の層が、町全体に広がっているのだ。城跡から本通りを歩き、さらに周辺を探索することで、一つの町の時間が、手に取るように見えてくる。それは観光地としての「岩村」ではなく、実際に人々が生きてきた「岩村」なのである。今回の旅で感じたのは、そうした実感だった。完璧に整えられた観光地ではなく、歴史がそのまま残っている町。そこを歩くことの喜び。

城跡から温泉地へ
そして印象的だったのは、この城下町散策の直後に下呂温泉へ向かったことだ。山城を歩いた足で、温泉に浸かる。汗を流し、湯の温もりを感じる。そういう流れが、今回の旅にはちょうどよかったのだ。城跡から温泉地へ、という動線は、体験的に一つの物語を作っていた。ただ観光地を巡るのではなく、時間の流れのなかで、岐阜の歴史と自然を感じる旅。それが実現した時間だったように思う。
無理なく楽しむヒント
岩村本通りは、一本道で比較的歩きやすい距離である。ただし、昔ながらの町並みの中を歩くので、靴は歩きやすいものを。五月から六月は気候がよく、歩きやすいが、日中の日差しは意外と強い。帽子やサングラスがあるとよい。また、一部に階段や段差がある場所もあるので、足元には注意が必要。家族連れの場合は、無理のないペースで立ち止まりながら歩くのがおすすめだ。
大人旅のひとこと
岩村という町を歩いていて気づくのは、時間というものが、人間の心に与える影響の大きさである。古い建物を見ること。その建物の前を何人もの人が、何百年も歩き続けてきたはずのこと。そうした事実を身体で感じるとき、私たちの人生も、また大きな時間の流れの一部であるのだと思わされるのだ。城下町を歩くというのは、ただ観光をするのではなく、そうした時間の重さと深さを感じることなのだろう。そしてそれは、人生の後半戦に差し掛かった者にとって、格別の意味を持つように思える。
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