

七月のまだ寝坊してもいい朝、目覚めるのは四時だった。函館は眠い。朝市の活気が始まるずっと前、七時台の元町を歩いてみることにした。静寂のなかで八幡坂を上り、教会群を抜け、旧函館区公会堂の近くで立ち止まる。そして正午には船で大間へ。帰ってきて、割烹旅館若松での会席料理。七月の函館はこんなふうに、静と動、朝と夜を切り替える場所なのだ。
七月の静寂。元町散歩から朝市まで
朝七時に目覚めたのは、自然の流れというより、ただ眠くなくなったからだ。函館の窓から見える景色は、まだどこか夢のなか。足を運んだのは元町の静寂のなかへ。八幡坂を上っていくと、道の両側に古い洋風建築が並んでいる。正式には「北海道坂」とも呼ばれるこの坂道は、歩いていると自分がどこの時代にいるのかわからなくなる。左右の建物の壁の色合い、赤レンガの質感、そしてどこからともなく漂ってくる朝の湿った空気が、時間をさかのぼらせるのだろう。元町公園に着くと、木々の根元から朝露がきらめいていた。ベンチに腰を掛けて、旧函館区公会堂の洋館を眺めていると、旅の醍醐味というのはこういう時間なのだと思う。人出のない時間帯だからこそ、町の顔をゆっくり観察できるのだ。教会群をくぐり、石畳を踏みしめながら函館朝市へ。朝市も六時台から営業しているのだが、七時を過ぎると、どっと人が増える。朝獲れの昆布やイカ、新鮮な野菜の香りが混在している。自分も人並みについて歩き、ちょっと目についた店で飯を食った。それは実に素朴なおにぎりとみそ汁で、函館の海の近さを感じさせるにはちょうどいい料理だった。

大間フェリーで津軽海峡を渡る
大間フェリーの往路は実に気持ちいい旅である。函館発九時十分、大函丸という船に乗り込んだ時点で、ああ、これだ、と思った。津軽海峡を挟んで青森県の大間へ向かうルートは、距離にして約六十キロ。所要時間は約一時間三十分。外海に出ると、船体がゆっくり上下する。売店でコーヒーを買って甲板に出てみると、風が予想より強い。七月なのに、そこはかとなく肌寒い感覚がある。青森側の陸地が近づくにつれ、大間港の建物がぼんやり見えてくる。着岸は十時四十分。港町を散歩する予定だったので、とりあえず歩き出した。漁港の臭いというのは独特で、新鮮な魚の生臭さとは別の、塩辛さと油分が混ざったような香りがする。大間といえば、マグロで有名だ。昼食は「大間マグロ食堂」のような看板を見つけて、そこへ入った。丼ぶりのなかで、赤黒いマグロの肉が光っていた。白いご飯の上に、これ以上ないくらいぴったり盛られたその色合いは、見るだけで唾液が出るほどだ。刻みネギとわさび、軽く塩をかけた醤油をかけて食べると、マグロの質感が舌に残る。三時間ほど滞在してから、午後一時四十分の便で函館へ帰った。

夕暮れどき、函館へ帰り着いて
帰りの船でちょっと酔った。往路ほどの強風ではなかったが、揺れが頭に来たのかもしれない。甲板から降りて、船室で目を閉じていると、いつのまにか函館が見えていた。十五時十分、港町へ戻ってきたのだ。港を離れて、少しそぞろ歩きをした。通りかかった古い商店街では、昼と夜の切り替わりの時間帯らしく、店の主人たちが看板を動かしたり、照明をつけたりしている。そのたびに街の表情が変わっていく。やがて宿へ戻り、二泊目の夕食に臨んだ。割烹旅館若松での食事は、毎晩が異なるメニューだという。この夜は毛ガニ、キンキ、活イカなどを使った会席料理だった。毛ガニの身をほぐして食べると、甘みが強く、磯の香りがダイレクトに鼻に抜ける。キンキは塩焼きで、皮はぱりっとしていて、身は白くてほどよい脂が乗っている。活イカは刺身で供されたが、透明感のある白さが、つやつやとしていて、新鮮さの証だった。割烹旅館若松という宿は、こうしたこだわりを毎夜違う形で見せてくれる場所なのである。

無理なく楽しむヒント
朝の散歩は早起き必須だが、函館は大人の町なので、無理な早寝をせず、前夜に二時間ほど早めに休むくらいでいい。大間フェリーは船酔いしやすい人は往路から酔い止めを飲んでおくこと。三時間の滞在時間は短いが、港町の雰囲気を感じるには十分。昼食はマグロ丼で決まりだが、可能なら事前に評判の店をチェックしておくと吉。割烹旅館若松の会席料理は夜遅い到着でも対応してくれるが、必ず宿に連絡してから向かうこと。七月は気温は高いが、船上は想外に涼しいので、羽織る上着が必須である。
大人旅のひとこと
















