

二日目の朝、温泉地の空気は別世界だ。会津若松の市街地で鶴ヶ城や飯盛山を歩いた昨日とは打って変わって、芦ノ牧温泉はひたすら静かで緑に満ちている。観光地ではなく、温泉地に来たのだから温泉を楽しむ。そう思えば、毎日どこかへ出かけなければならないというプレッシャーから解放される。温泉に浸かり、日本酒を味わい、景色を眺める。夫婦二人でそれでいい、という時間を過ごすことが、この旅で何より大切なことだと気づかされた。
温泉地の朝は、時間が違う
二日目の朝、目を覚ましたときから時間の流れ方が違うと感じた。温泉地の朝は、なぜか異なる速度で進む。明け方の薄い光が障子を通して入り、やさしく部屋全体を包む。朝食を済ませて部屋に戻ると、窓の向こうに山々の緑が見える。静かだ。本当に静かなのだ。昨日まで歩き回っていた会津若松の市街地と、ここまで違う風景が30分も離れていないなんて不思議なもんだ。そう思いながら、ゆっくり珈琲を飲む。この時間が、後になって旅の中で一番心に残ることになるとは、このときはまだ気づいていなかった。

静かさの中で感覚が研ぎ澄まされる
外へ出て少し歩いてみた。芦ノ牧温泉の自然をじかに感じたかったのだ。空気が違う。緑の香りが、香りだけで人間の心をこんなに変えるものか、と思うほどに深い。細い道を進むと、温泉宿の瓦葺き屋根が見え、その奥には滔々と流れる川の音が聞こえてくる。普段の生活では聞くことのない、本当の静寂というやつだ。昼間はゆったりとしたペースで過ごす。昼寝もした。温泉にも何度も浸かった。夕方になると、部屋から見える景色は少しずつ色を変え始める。山頂の緑が濃紺に変わり、空がオレンジ色に染まる。夫婦で同じ景色を眺めて、「いいところだね」「来てよかったね」と言い合う。派手な感動ではなく、静かな満足感が二人を包む。

会津の日本酒を、ゆっくり味わう
会津は日本酒の土地として知られている。旅に来る前から、地元の銘柄を飲むのを楽しみにしていた。普段飲む酒も悪くないが、旅先で飲む酒はなぜか別物だ。「会津で飲んでいる」というだけで、同じ銘柄でも格が上がったように感じる。それは気のせいではなく、この静かな景色の中で、山の空気を吸いながら、ゆっくり時間をかけて飲むからなのだろう。夕食は部屋でとる。料理を一品食べ、日本酒を少しずつ飲む。急いで飲む必要はない。舌の上で味わい、甘みを感じ、後味の余韻まで楽しむ。そうして食事が終わったら、また温泉へ。この循環だけで十分に満足する。

派手ではない、でも心に残る時間
二日目は昨日より何もしなかった。しかし、それでいい。普段の生活では、温泉に何度も入ることもなければ、昼間からゆっくり昼寝をすることもない。日本酒をそこまで味わって飲むこともめずらしい。だからこそ、旅に来たときくらい、こういう時間を持ちたい。夜も更けて、部屋から外を見ると、月の光が川面を銀色に染めている。明日はもう帰る。2泊3日は短い。だが、十分にゆっくりできたと感じる。最後にもう一度温泉へ浸かり、心地よい疲れのまま眠りに落ちた。

無理なく楽しむヒント
温泉地での過ごし方で大切なのは、観光地だと思わないことだ。毎日どこかへ行かなければならないというプレッシャーは捨てよう。持ち物としては、温泉に何度も入ることになるので、タオルは多めに用意しておくといい。また、会津の地酒はいろいろな銘柄があるので、夕食時に宿の人に「おすすめは」と聞いてみるのもいい。体力的には温泉地は歩く距離が少なくて済むため、60代、70代でも無理なく過ごせる。ただし、温泉の入浴は体力を使うので、無理をせず、好きなタイミングで浸かることをお勧めする。















